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化学系特許の中間応答の類型 (2) 数値範囲下位概念型

今回は、化学系特許の進歩性を主張するための類型のうち、数値範囲下位概念型の応答方法について説明します。

なお、以下の事例は架空のもので、技術的な正確性はありません。また、新規性・進歩性欠如の拒絶理由としては、以下に挙げられているもの以外ないものとします。

<①審査時の本願発明の内容>

  • 特許請求の範囲

【請求項1】

ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 10~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 15~25質量部とを含む

樹脂組成物。

  • 課題

「本発明は、耐摩耗性に優れ、難燃性が高い樹脂組成物を提供することを目的とする。」

  • 明細書中の鱗片状黒鉛の含有量

「鱗片状黒鉛の含有量が15~25質量部であると、耐摩耗性が著しく向上する。」

  • 実施例

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鱗片状黒鉛含有量(質量部)耐摩耗指数※高いほどよい
実施例1
15
180
実施例2
20
200
実施例3
25
190
比較例1
12
90
比較例2
30
100

<②拒絶理由の概要>

鱗片状黒鉛の含有量に関し、引用文献1には、鱗片状黒鉛の含有量は、5~50質量部であることが好ましいことが記載されており、当業者はこの範囲内で、難燃性等の性能を考慮して適宜選択するものである。

請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づき進歩性を有しない。

<③引用文献1の記載>

  • 明細書に記載された発明の全体構成

「ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 10~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 5~50質量部とを含む

樹脂組成物。」

  • 課題

「本発明は、高い熱伝導性を有し、難燃性が高い樹脂組成物を提供することを目的とする。」

  • 明細書中の鱗片状黒鉛の含有量

「鱗片状黒鉛の含有量は、5~50質量部であることが好ましい。鱗片状黒鉛の含有量が5~50質量部であることにより、熱伝導性を高めることができる。」

  • 実施例

「ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 10~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、」

を含むが、平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛を、15~25質量部含む樹脂組成物試料は開示されていない。なお、平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛を、10質量部含む樹脂組成物試料や30質量部含む樹脂組成物試料は開示されている。

<④拒絶理由に対する応答>

  • 補正

なし

  • 意見書の内容

「本願の請求項1に係る発明は、鱗片状黒鉛を15~25質量部含みます。

これに対し、引用文献1に記載の発明は、鱗片状黒鉛を5~50質量部含みます。

したがって、鱗片状黒鉛の含有量において、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明の下位概念に相当しますので、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明に対し新規性を有します。

本願の請求項1に係る発明は、鱗片状黒鉛を15~25質量部含有させることによって、耐摩耗性指数を大幅に高めることができるという知見に基づくものであり、その効果は実施例においても実証しています。

一方、引用文献1において鱗片状黒鉛を用いるのは、熱伝導性を高めることを目的とするものであり、このような目的からすると鱗片状黒鉛の含有量を15~25質量部という範囲に選択することは、たとえ当業者であっても容易ではありません。

また、鱗片状黒鉛を15~25質量部含有させることによって、耐摩耗性指数を大幅に高めることができるという本願の請求項1に係る発明の効果は、引用文献1に記載の発明と異質な効果を奏するものと思料致します。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明にたいし進歩性を有します。」

<⑤解説>

本ケースは、鱗片状黒鉛の含有量という数値パラメータについて、同じパラメータを開示する引用文献1に比べて狭い範囲を特定したものです。

そして、この場合において、引用文献1では検討していない耐摩耗性というパラメータが著しく高くなるデータを利用して、課題の違いから鱗片状黒鉛の含有量をその狭い範囲とすることは容易想到ではないし、耐摩耗性がその範囲で高くなることは、引用文献1に記載の発明に対して異質な効果であると主張しています。

以上の例では、実施例が比較例よりも非常に大きな耐摩耗指数を示しておりますが、実施例と比較例の間での差がある程度あればこのような主張はできます。

また、以上の例では、本願と引用文献1の間で課題が異なる例を示していますが、課題が同様であっても、本願の請求項1が特定する狭い範囲で、引用文献1の実施例よりも数値が良好であると言えるのであれば、特許性が認められる可能性があります。

                                       執筆:制野