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化学系特許の中間応答の類型 (5) 除くクレーム型

今回は、化学系特許の進歩性を主張するための類型のうち、除くクレーム型の応答方法について説明します。

なお、以下の事例は架空のもので、技術的な正確性はありません。また、新規性・進歩性欠如の拒絶理由としては、以下に挙げられているもの以外ないものとします。

<①審査時の本願発明の内容>

  • 特許請求の範囲

【請求項1】

ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 10~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 1~10質量部とを含む

樹脂組成物。

  • 明細書

赤リンを含有することについて記載はない。

  • 実施例

赤リンを含有する試料は実施例に記載されていない。

<②拒絶理由の概要>

請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づき新規性を有しない。

<③引用文献1の記載>

  • 明細書に記載された発明の全体構成

「ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 10~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 1~10質量部と、

赤リン 1~10質量部とを含む

樹脂組成物。」

※引用文献1においては、赤リン 1~10質量部が必須の構成となっている。

  • 課題

「本発明は、高い熱伝導性を有し、難燃性が高い樹脂組成物を提供することを目的とする。」

  • 明細書

「樹脂組成物は、赤リンを1~10質量部含む。樹脂組成物に赤リンを1~10質量部含むことにより、樹脂組成物の難燃性を高めることができる。」

  • 実施例

赤リンを含む樹脂組成物試料と、赤リンを含まない樹脂組成物試料について、燃焼試験を行った結果、赤リンを1~10質量部含む樹脂組成物試料は難燃性が高いのに対して、赤リンを含まない樹脂組成物試料や赤リンを0.5質量部含む樹脂組成物試料は、十分な難燃性を示さないことが開示されている。

<④拒絶理由に対する応答>

  • 補正

ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 10~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 1~10質量部とを含む

樹脂組成物(ただし、赤リンを含むものを除く。)

  • 意見書の内容

「本願の請求項1に係る発明は、赤リンを含有しません。

これに対し、引用文献1に記載の発明は、赤リンを含みます。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明に対し新規性を有します。

引用文献1の明細書には、『樹脂組成物に赤リンを1~10質量部含むことにより、樹脂組成物の難燃性を高めることができる。』と記載されています。また、引用文献1の実施例には、赤リンを1~10質量部含む樹脂組成物試料は難燃性が高いのに対して、赤リンを含まない樹脂組成物試料は、十分な難燃性を示さないことが開示されています。したがって、引用文献1の樹脂組成物において、赤リンを所定量含有しない場合、『高い熱伝導性を有し、難燃性が高い樹脂組成物を提供する』という、引用文献1の課題が解決できません。

そうしますと、引用文献1の課題に反しますので、当業者は、引用文献1において赤リンを含まないものとすることはできず、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に対して進歩性を有します。」

<⑤解説>

「除くクレーム」を利用して、引用文献の必須の構成を除くことで拒絶理由が解消されます。

必須の構成か否かの判断は、クレームで必須になっているか否かではなく、引用文献の課題への寄与に基づいて判断します。言い換えると、その構成を含まなくなることで、引用文献の課題が解決できなくなるのであれば、除外する動機づけがないと言えます。

一方で、従属請求項の構成等、その構成が任意の構成である場合、それを除いても、拒絶理由は解消しません。

除くクレームは、外国では認めていないところが多いので、PPHの際にリスクが生じる等のデメリットもあります。

出願時に、新規性や進歩性に影響しそうな文献があり、かつ上述した引用文献1のように、本件出願関連の製品では含むことを想定していない成分が必須の成分として特定されている場合には、その含有量未満の量を特定する方が良いでしょう。例えば、上述した例で言えば、明細書に「樹脂組成物は、赤リンの含有量が0質量%以上(赤リンを含有しない場合も含む)0.5質量%以下であることが好ましい。」というように、補正要件を設けておきます。

                                       執筆:制野