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化学系特許の中間応答の類型 (1) 数値範囲差別化型

化学系特許の進歩性を主張するための応答にはいくつか典型的な類型があります。以下、具体的な拒絶理由や引用文献の内容を挙げ、それに対する応答の内容について具体的に説明します。

なお、以下の事例は架空のもので、技術的な正確性はありません。また、新規性・進歩性欠如の拒絶理由としては、以下に挙げられているもの以外ないものとします。

<①審査時の本願発明の内容>

  • 特許請求の範囲

【請求項1】

ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 20~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 10~50質量部とを含む

樹脂組成物。

  • 課題

「本発明は、耐摩耗性に優れ、難燃性が高い樹脂組成物を提供することを目的とする。」

  • 明細書中の鱗片状黒鉛の含有量

「鱗片状黒鉛の含有量は、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。」

<②拒絶理由の概要>

請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づき新規性を有しない。

<③引用文献1の記載>

  • 明細書に記載された発明の全体構成

「ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 20~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 30~50質量部とを含む

樹脂組成物。」

  • 課題

「本発明は、高い熱伝導性を有し、難燃性が高い樹脂組成物を提供することを目的とする。」

  • 明細書中の鱗片状黒鉛の含有量

「鱗片状黒鉛の含有量は、30質量部以上であることが好ましい。鱗片状黒鉛の含有量が30質量部未満であると、熱伝導性が低下するおそれがある。」

<④拒絶理由に対する応答>

  • 補正

【請求項1】

ポリエチレンテレフタレート樹脂 20~60質量部と、

融点が100℃以上200℃以下のエラストマー樹脂 20~40質量部と、

リン酸系難燃剤 5~20質量部と、

平均粒子径が0.5~200μmのシリカ粒子 5~20質量部と、

平均粒子径が2~100μmの鱗片状黒鉛 10~20質量部とを含む

樹脂組成物。 (下線部は補正箇所)

  • 意見書の内容

「本願の請求項1に係る発明は、鱗片状黒鉛を10~20質量部含みます。

これに対し、引用文献1に記載の発明は、鱗片状黒鉛を30~50質量部含みます。

したがって、鱗片状黒鉛の含有量において、本願の請求項1に係る発明と、引用文献1に記載の発明とは相違します。

この相違点に関し、引用文献1には、『鱗片状黒鉛の含有量は、30質量部以上であることが好ましい。鱗片状黒鉛の含有量が30質量部未満であると、熱伝導性が低下するおそれがある。』と記載されているように、鱗片状黒鉛の含有量を30質量部未満、特に20質量部以下に変更した場合、熱伝導性が低下するおそれがあるため、高い熱伝導性を有する樹脂製造物を提供するという引用文献1の課題が解決できなくなるおそれがあります。

したがって、このような引用文献1の課題の下、引用文献1において鱗片状黒鉛の含有量を20質量部以下に変更することはたとえ当業者であっても容易ではありません。」

<⑤解説>

本ケースは、鱗片状黒鉛の含有量という数値パラメータについて、引用文献1との区別を図ったものです。

化学分野では、数値で引用文献と区別を図ると、拒絶理由が解消されやすいため、まずは数値範囲で区別できないか検討します。補正要件については、明細書の一般的記載の他、実施例の具体的な数値について第一に検討します。

今回、鱗片状黒鉛の含有量について区別を図っていますが、鱗片状黒鉛の平均粒子径で引用文献1と区別ができるのであれば、鱗片状黒鉛の平均粒子径を補正してもよいですし、他成分の含有量で引用文献1と区別ができるのであれば、他の成分の含有量を補正してもよいです。

また、引用文献1の記載が、示したケースの「鱗片状黒鉛の含有量は、30質量部以上であることが好ましい。鱗片状黒鉛の含有量が30質量部未満であると、熱伝導性が低下するおそれがある。」のように数値範囲を満たさないときのデメリットではなく、「鱗片状黒鉛の含有量は、30質量部以上であることが好ましい。鱗片状黒鉛の含有量が30質量部以上であることにより、熱伝導性を高めることができる。」のように、数値範囲を満たすときのメリットとして記載されていることもありますが、同様の主張をすることができます。

さらに、引用文献1の記載が、「鱗片状黒鉛の含有量が30質量部未満であると、混練装置に詰まりが発生するおそれがある。」のように、数値範囲に相違を設けた構成に関する引用文献1の限定理由が課題と関係ない場合、主張としては若干弱くなりますが、鱗片状黒鉛の含有量が30質量部未満の範囲は、引用文献1が開示しないと主張すれば、拒絶理由の解消可能性は十分にあるかと思います。

                                       執筆:制野